獣医学教育改善の議論では、動物福祉が置き去り<


獣医学教育改善の議論では、動物福祉が置き去り (PEACE 活動報告 Blog より)


投稿日: 2013/03/24 PEACE ~命の搾取ではなく尊厳を~ 動物保護の活動をしています http://animals-peace.net/ http://animals-peace.net/event/vet_edu24_9-10.html
http://animals-peace.net/event/vet_edu24_9-10.html
昨日の動物愛護部会で、獣医学や獣医師についての話題が出たので、最近怠っていた傍聴報告の続きをしなければ!と思いました。
文部科学省の「獣医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議(平成23年度~)」は、現在第10回までが進んで、今度の火曜日に第11回目が開催されますが、現在のところ、論点整理に動物福祉の話題が入っていません。前期のときは、環境省(動物愛護管理室)もオブザーバー参加していたのですが、今期(平成23年度~)は呼ばれていないようで、このことにも「動物福祉排除」の傾向を感じざるを得ません。
ここのところの議論は、獣医学教育の質(ひいては動物そのもの)は置き去りの状態とも言え、獣医師の職域拡大・既存利益確保がやはり最大の関心事という印象です。
第9回で配られた、これまで出た主な意見の一覧には、若干動物福祉の観点での発言も含まれていたのですが、第10回で公開された論点整理では一切出てこなくなりました。
そもそも会議の委員に獣医療のユーザー側が入っておらず関係者のみなので、そうなることは必至かもしれませんが、獣医学教育の改善は「獣医師という資格とその職域確保のためであって、動物のためではない」ことが色濃くなってきています。
特に、この直近の2回の話し合いで特に印象に残っているのは、獣医学科の定員増の是か非か問題です。
第9回では、唐木英明氏が「ライフサイエンス研究をする研究者を増やすために定員増が必要」と話し、日本獣医師会会長などが、「今の低い教育の質のまま獣医師を乱造しても意味はない」と真っ向から対決ムードでした。
この議論の中で、むしろ獣医師の資格を得ながら獣医師以外の職域に行く人が毎年2割もいることが、医師資格にくらべて問題であり、ここを何とかするべきではないかという話がありました。獣医師会調べでは4000人が資格を持ちながら獣医師の仕事をしていないのだそうです。
医師とは待遇が違うと言ってしまえばそれまでですが、6年間の獣医師の養成(しかも、かなりの少数限定教育と言える)に公的財源が投下されていることを考えれば、やはり市民としてはこれは問題に感じます。女性に対する職場環境の改善なども必要ではないかという意見が出ていて、全くその通りだと思いました。
また、昨日の動物部会で地域猫の方々が要望されていた話を思い出します。動物の健康を守ることを勉強してきたのに、動物を守ることに資格を生かせない(そういう職域が乏しい)ことも遠因になっているのではないかと、感じてしまいます。
そのほか、直接動物福祉に関係するかどうかはわかりませんが、興味のある向きもあると思うので、この2回で出た話を以下、ざっとご紹介します。

第9回


◆小動物獣医師数の需給バランスの展望
アニコム損保からのヒアリングでした。結論から言うと、小動物医療の補助者(看護師など)との分業化が進めば、需要獣医師数は減少するというのが、アニコムの見方です。一方、動物の高齢化に伴う医療需要は増加しており、アジアなどへの海外進出も積極的に行えば、需要は増加するという展望についても話をしていました。 海外進出の例として、シンガポールは自国で獣医療教育を行わず、海外から獣医師の需要を得ているといった話が出ていましたが、この話は結局、「日本では獣医学教育のレベルアップが必要」という話にループしていくのではないかと思わざるを得ません。あくまで「夢」ではないかというのが感想です。
◆産業動物診療獣医師をめぐる環境について
牛は乳牛と肉牛と合わせて8万戸。1戸当り頭数は規模の拡大が進み、大規模なものがふえているが、頭数はフラットになっていく見通し。肉牛は、子取り用が少なくなっている。肥育も大規模なものがふえている。東京オリンピックあたりから、戸数はがくがくと減っている。思った以上に減り方ははげしく、大規模化がすすんでいる。
豚も集約化、大規模化している。平成2年から見て、1戸当り頭数は、現在は6倍。頭数をふやしやすい。
鶏も、採卵鶏・ブロイラー両方合わせても、3千戸。この3千戸は、すべて把握できている状況。(そういえば、こんな調査があったな、と思いました。全戸調査もやればできます。)
獣医関係大学卒業者の就職状況は、農業協同組合は、畜産だけではなく大規模化が進んでおり、減少している。農業共済組合では取り組みが進んでおり、就職は(一時期減るものの)ふえている。個人診療への就職は減少している。
学生の意識調査を見ると、産業動物の診療に対する関心は、入学当時は少ないが、大動物の学内実習と農家での実習でふえる。進路が決まる前に体験させることが重要。関連情報の提供なども必要。産業動物就業研修では、7割が産業動物に行っており、効果はあったと考える。
戸数が減り、1戸当り頭数が増加すると、求められるものが多岐にわたるようになってくる。例えば、野生動物と共通の感染症の知識など。また総合的な指導が必要で、診療も大事だが、コンサルタント的な獣医師も必要になってくる。大学と連携できるといいという声もあり、質が求められる。
◆獣医学教育の定員問題に関する意見
前期のこの会議の座長であり、現在は倉敷芸術科学大学の学長である唐木英明氏からのヒアリングです。獣医学部・学科の収容定員は、昭和59年度当時の930名に抑制されていますが、その「定員問題」についてでした。
※出された話 ……と、だいたいこのような話が歴史的経緯も交えてされました。質疑応答では、規制緩和の流れの中で定員が撤廃されては困るので、その前に自分たちで「これくらい」というものを示すべきという話もしていました。
※ディスカッションで出ていた話